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第4章:断罪へのカウントダウン 5

Author: 社菘
last update Last Updated: 2025-07-12 17:00:22
 それからあっという間にムーン・ナイトの当日になり、朝から学園内は浮き足立っている。セナのお披露目パーティーの時と同じようにベルティアの衣装はパーシヴァルが用意をしてくれて、白を基調とした綺麗な服にまた度肝を抜かれた。

「やっぱりベルティアは何を着ても似合うね」

「そんなお世辞を……今回も素敵な衣装を用意してくださってすみません、ありがとうございます」

 セナが来るかとヒヤヒヤしたけれど、結局会場のエスコートはパーシヴァルがパートナーとして務めてくれた。セナはといえば、最後にノアと一緒に入場して他の生徒たちの話題を攫ったものだ。

「ベルティア先輩! 今日も素敵なお衣装ですねっ」

「パーシヴァル殿下のおかげです。セナ様も素敵ですよ」

「ありがとうございます、嬉しいです!」

 一度目のダンスが終了した後、セナは笑顔でベルティアの元へ駆け寄ってくる。お披露目パーティーの時と同じようにセナとノアはリンクコーデになっていて、まさしくムーン・ナイトの主役だと言えるだろう。

 ただ忘れてはいけないのが、セナとベルティアの腕にはお揃いのブレスレットが輝いているということ。セナはするりとベルティアの手を握り「ベルティア先輩、僕と一緒に踊ってください」と微笑んだ。

「えっと、でも……」

 注目されるのは避けたいけれど、この会場にいること自体が注目の的なので意味がない。それでも一緒に踊るのは……とパーシヴァルやノアに助けを求めたが、二人ともあっという間に女生徒たちに囲まれて助けは求められなかった。

「王子様とじゃ幸せになれないよ。主人公である僕の手を取らなくちゃ」

「えっ?」

 セナにダンスホールへ手を引かれながら、周りの音楽や会話に紛れて彼の言葉がよく聞き取れなかった。でも『主人公』という言葉だけは聞こえた気がする。その言葉をセナがどういう意味で使ったのか分からなくて呆然としていると、いつの間にかベルティアがリードされる側でダンスが始まろうとしていた。

「お、俺がこっち側なんですか?」

「もちろん。僕はあなたを守りたい側だから」

「それってどういう……」

「ふふ。そのままの意味です」

 困惑するベルティアをよそにセナはくすくす笑っていて、音楽は容赦なくスタートした。パーシヴァルと踊った時もリードされる側で踊ったので戸惑いはしなかったけれど、相手がセナであることは違和感だ。
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